2017年8月14日月曜日

母のミトン 


昔々、まだ私が小学生だったころのこと。

冬の朝、私は家の外で妹たちを待っている…。


まだまだ本格的な冬の寒さではなかったものの、
寒さで手が凍りそうでした。

引き戸は開いているのですが、
母は家の中にいて、
急にかぎ針編みを始めたのです。

母が編み物をする姿というのは、
それまで一度も見たことがなかったので、
一体何を始めるのだろうかと、
子ども心に驚いたし、とても不思議でした。

水色の、とても太い毛糸だったのを覚えていますが、
そんな色の毛糸がなぜ、家にあったのかも不思議です。


母は私のことなどお構い無しに、
ザクザクと編み、
みるみるうちに、
手袋が出来上がりました。

あれは松編みだったのでしょう。

大きさを確認したら、
母はもう片方をもっと早く編み上げました。

登校前に妹たちが身支度をする間、
ほんのいっとき、15分ばかりのことです。



父の仕事を手伝って忙しく、
家のことは全て祖母任せだのに、
ふと急に、私の手袋を編み上げる母は、
超人のようだと思ったのでした。


子どもの手だから、
サイズだって小さくて、
手袋くらいすぐに編めるのかもしれません。

後にも先にも、
母が私に何かを編んでくれたのは、
あの時だけ。

なぜか今も鮮明に覚えているのは、
たった一度きりだからこそでしょうか?



戦争で父を亡くし、
長女だった母は稼ぎ手にさせられ、
進学できずに就職。
昼間は繊維会社の事務、
夜は家でベビー服を編んで、
勤務先近くのデパートへ納品していたのだと、
ずっと後になって聞いたことがありました。

編み物は苦労した証だから、
結婚後はやめたのかもしれません。

そんな母が、一瞬だけ昔に戻って、
私にミトンを編んでくれたのでした。

あれ、どうしちゃったのかなあ…。
今でも、家のどこかにあるのかなあ…。



そんなことをつらつらと思う母の命日に、
猫が逝ってしまいました。

あの世で母は、
さみしい思いをしているのかもしれません。

猫より犬の好きな母だったけれど、
私の愛猫、可愛がってほしいと思います。



0 件のコメント:

広瀬さんのチェンネル発見

YouTubeのお薦めに、 広瀬光治さんの動画が上がってきました。 『広瀬光治のあみものワールド』 即見です。笑 なつかしい〜! 初回のライブ配信では、 ご自身の経歴を話されていて、 初めて伺うことばかりで、聞き入ってしまいました。笑 『おしゃれ工房』の話もされています。 番組名...