昔々、まだ私が小学生だったころのこと。
冬の朝、私は家の外で妹たちを待っている…。
まだまだ本格的な冬の寒さではなかったものの、
寒さで手が凍りそうでした。
引き戸は開いているのですが、
母は家の中にいて、
急にかぎ針編みを始めたのです。
母が編み物をする姿というのは、
それまで一度も見たことがなかったので、
一体何を始めるのだろうかと、
子ども心に驚いたし、とても不思議でした。
水色の、とても太い毛糸だったのを覚えていますが、
そんな色の毛糸がなぜ、家にあったのかも不思議です。
母は私のことなどお構い無しに、
ザクザクと編み、
みるみるうちに、
手袋が出来上がりました。
あれは松編みだったのでしょう。
大きさを確認したら、
母はもう片方をもっと早く編み上げました。
登校前に妹たちが身支度をする間、
ほんのいっとき、15分ばかりのことです。
父の仕事を手伝って忙しく、
家のことは全て祖母任せだのに、
ふと急に、私の手袋を編み上げる母は、
超人のようだと思ったのでした。
子どもの手だから、
サイズだって小さくて、
手袋くらいすぐに編めるのかもしれません。
後にも先にも、
母が私に何かを編んでくれたのは、
あの時だけ。
なぜか今も鮮明に覚えているのは、
たった一度きりだからこそでしょうか?
戦争で父を亡くし、
長女だった母は稼ぎ手にさせられ、
進学できずに就職。
昼間は繊維会社の事務、
夜は家でベビー服を編んで、
勤務先近くのデパートへ納品していたのだと、
ずっと後になって聞いたことがありました。
編み物は苦労した証だから、
結婚後はやめたのかもしれません。
そんな母が、一瞬だけ昔に戻って、
私にミトンを編んでくれたのでした。
あれ、どうしちゃったのかなあ…。
今でも、家のどこかにあるのかなあ…。
今でも、家のどこかにあるのかなあ…。
そんなことをつらつらと思う母の命日に、
猫が逝ってしまいました。
あの世で母は、
さみしい思いをしているのかもしれません。
猫より犬の好きな母だったけれど、
私の愛猫、可愛がってほしいと思います。
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